Q&A

はじめに

 このQ&A集は、「小児・AYA世代のがんの長期フォローアップ体制事業」が行う研修会(LCAS)の終了後に受講者に対して行ったアンケートに記載された質問に対し、研修会スタッフが手分けして回答を作成したもので、治療ガイドラインなどとは異なります。研修会のスケジュール上、十分な質疑応答の時間をお割けなかったことに対する補完の意味も含めて作成しております。受講者のみならず、小児がんの長期フォローに携わる様々な医療スタッフのお役にたてば幸いです。

Q&A

下記のリンクをクリックすると各項目へジャンプします。
●フォローアップについて ●成人科への移行について ●晩期合併症についていつ話すか ●病名告知について
●治療サマリーについて ●フォローアップ手帳について ●認知機能について ●二次がんについて
●放射線治療について ●生殖機能(妊孕性)について ●成人科の先生への質問 ●診療報酬など
●経験者への質問 ●AYA世代のがん患者 ●入院時の心理・社会的な問題 ●教育について
●その他・過去の質問
 
  • 合併症チェック票について

 こちらからダウンロードいただけます。ぜひ、ご活用ください。
>>合併症チェック票(PDF版) >>合併症チェック票(エクセル版)
 
  • フォローアップについて

Q
A 長期フォローアップをいつまで続ける必要があるかは、経験者の基礎疾患やがんの性質、受けた治療内容と実際に晩期合併症を発症しているか否かにより大きく変わり個別性が高いです。「小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン」ではフォローアップレベルとして診療情報を総合的に評価してどの程度の密度でいつまでフォローアップを継続するかの目安を示していますのでそちらをご参照のうえ個々の経験者についてご検討ください。
Q
A 固形腫瘍患者は疾患や治療内容が多彩なので一概には言えません。臓器合併症がなく治療介入が必要な問題がなければ、成人後は自己健康管理が中心になりますので、治療サマリーをお渡しし、化学療法や放射線治療による晩期合併症リスク情報をお伝えすることや、必要時の情報入手先をご紹介すること、そしてまずは一つ基点になれそうな医療機関を受診し、カルテを作っておくことをお勧めしています。普段はこれということがなくても、何かあった時に自宅や職場から救急車で行くような、そこそこの病院の診察券を持っているということが備えになります。小児がん治療後の問題をOne stopで診療して欲しいというのはまだまだ贅沢な話で、肺炎でもイレウスでも、何かちょっとした入院治療に対応してくれそうなところをまず確保し、予め自分の病歴と気を付けて欲しいポイントをお伝えして、何かあった時のお願いをしておくと受け入れは全然違いますし、先方にとっても混乱が少ないです(救急車も困らない)。紹介先は、血圧など内科的合併症が心配なら内科、イレウスなど外科的合併症が心配なら外科でいいと思いますので、具体的に対応して欲しいこと、起こりやすそうな救急事項を記載した診療情報提供書を作成します。緊急時は総合病院なら緊急検査にも対応しやすいですし、内部で対応するか、さらに高度医療機関へ紹介するかの判断もしやすいと思います。普段の健康管理は、風邪をひいた時などのかかりつけ医の確保と、職場検診、公的ながん検診が中心になるでしょう。余裕のある方は人間ドックを利用されるかもしれません。ただし一般人向けに考えられている職場検診や人間ドックは小児がん治療後としては内容が不十分なので、検診の中身を確認し、最低限の足りない部分(頭部照射後のMRI検査など。)は他で補う必要があることを伝えます(救急時の紹介先で、治療はできないが、具体的に指示してくれれば検査はできますと言ってくれるところも多いです)。これらのことは一度に行うと混乱が生じるので、段階を踏んで準備するのがよいと思いますし、小児医療側はサポート役として並走が必要なこともあるでしょう。治療が必要な合併症があれば、その合併症の成人移行を中心に据えて、上記を踏まえた周囲のサポートを固めていくのがよいと思います。
Q
A その病態・合併症ががんに起因しており、がん治療により軽快治癒するのではなく継続診療が必要な場合は、がん治療と直接の関係がなくても晩期合併症に含めます。「専門診療科でのフォローアップが必要な疾患特異的な問題」として「5B」に該当します。
Q
A 対応可能年齢は施設によって違います。入院・外来とも一定年齢で区切っている施設もありますし、フォローアップに関しては成人にも外来診療の余地を限定的に残している施設もあります。しかし小児施設の限界として、入院や、継続的な治療介入は困難なので、これらのことが必要な場合は、成人医療機関や、地域医療機関に診療を依頼する必要があります。引継ぎ先を探し、紹介先での診療が安定するまで、ある程度は小児施設での診療を平行して継続する必要があることも多いです。
Q
A 相手が、何をしてくれる人なのか、特に看護師の立場ですと、お話を聞く、ということもあるかもしれませんが、初対面の相手に、最初から本音を語る、ことは彼らにとっても簡単ではないと思います。直面しているかもしれない事柄で困りごとはないか、それについてあれば話してよいこと、一緒に考えたいことなどを専門家として、最初に経験者に伝えるなどしています。その内容が病気体験と直接関連している場合も、不確かな場合もあるかともいますが、相手の気持ちを引き出す、というよりも相手の話や思いをきちんと受け止める、という基本姿勢が大切かと思います。
また経験者にとっても初対面で何を話したらよいのか、と戸惑う場合もあるかと思います。話す内容に正解も間違いもありませんので、思春期にある経験者などの場合には、同じ経験者の声として複数のパターンで、他の経験者で起こりうる事柄やそれに伴う感情などの例を挙げるなどすると、そういえば・・と話はじめたりする場合も経験します。
Q
A PLSG長期フォローアップ委員会が作成した「小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン」では、代表的な小児がん15疾患を取り上げた疾患別フォローアップガイドラインとして、その疾患に対して1970年代頃から現代までに行われてきた治療による晩期合併症とフォローアップについて記載しています。また、臓器別・症状別フォローアップガイドラインでは、各臓器、症状に焦点をあてて晩期合併症とフォローアップを紹介しています。
AYA世代では、小児と同じがん種が発生する場合もありますが、30代以降になると乳がんをはじめ、成人型のがん種の患者さんが増えてきます。小児がん治療後の長期フォローアップガイドラインでは、AYA世代に主に発生するがん種の全てには対応しておりません。また、同じ疾患であったとしても、成長発達の途上にある小児とAYA世代(とくに成人)とでは、治療による影響は異なりますので、AYA世代がん患者さんに小児のガイドラインをそのまま当てはめることはできません。臓器別・症状別フォローアップガイドラインも同様です。
特に、心理、社会面においては、AYA世代がん患者さんには、世代特有の問題があることが知られており*、小児がん治療後の長期フォローアップガイドラインでは、こうした点については網羅しておりません。
ある程度参考にしていただける部分もありますが、AYA世代がんに対して対応できるかといいますと、不十分であると思います。
*参考文献 平成27-29年厚生労働科学研究時補助金(がん対策推進総合研究事業)「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」班 編 医療従事者が知っておきたいAYA世代がんサポートガイド 金原出版 東京2018年
Q
A 小児がんの患者さんを一生小児科医だけで見ていくことは、できないのではないかと思います。小児がんの患者さんは、小児がん自体は治癒していることが多く、治療の影響、あるいは小児がんそのものの影響で起こる可能性のある病気・病態のスクリーニング検査や診察をすることが必要なので、必ずしもがん拠点病院の成人科での診療が必要というわけではなく、近所の成人を診療される一般総合病院あるいはクリニックでみていただくのでよいと思います。しかしどこの病院でみていただくのであっても、診療の目安としてガイドラインに目を通していただくことは重要だと思います。
Q
A 長期フォローアップ外来では、原疾患の状態や身体合併症のみならず、心理的な問題や心身その他様々な要因による生活の支障も評価し対応する必要があります。生活の支障まで評価するには多職種で定例カンファレンスを持ち情報を共有し適切な対応を相談出来ることが確かに理想的です。しかし時間も人的資源も限られ理想が叶わない中で最も重点を置くべきは何かと言えばそれは身体面の適切な評価と対応です。体調を可能な限り良好に保つことは最大の社会復帰支援です。同時にそれにとどまらず出来る限り看護師を巻き込み外来の待ち時間を利用して身体や病気以外の事も話題にして情報収集に努めてみてはいかがでしょうか。その情報共有と対応の相談をするカンファレンスは定例でも不定期でも構わないと思います。
Q
A 長期フォローアップは、施設によって様々ですが、治療終了後、再発の心配が少なくなる時期から始めることが多いと思います。つまり治療終了後2~5年以後が多くなるのではないでしょうか。すでに晩期合併症がある方でなければ治療後5年を過ぎると1年に1~2回の受診になると思います。そういった間隔であれば、一人に対する診療時間は少なくても検査時間を入れないで30分は必要になり、現在治療をしている患者さんとは別の診療時間を設けて診察をする必要が出てくると思います。できれば、小児内科的な診察だけでなく循環器や内分泌の医師の診察、歯科が併設されている施設では歯科医師の診察、心理士との相談などを1回の受診で出来るのであれば、それが望ましいと思います。この場合は、病院での滞在時間は長くなることでしょう。受診日1日で何をやるかは、施設ごとの体制もあるので、決まり事ではないと考えています。事前に心エコー検査の予約やMRI検査の予約が必要なことも多いので、全てを1回の外来受診で済ませることは難しいことが多いのではないでしょうか。対応する職種に関しては、問診は看護師が中心になるのがよいでしょうし、採血や検尿、そのほかの検査の内容はできれば外来受診の前に多職種カンファレンスなどを行い、決定していくことが望ましいのではないかと思います。
Q
A フォローアップに必要な検査をどこまでするか、特に患者負担になる場合にどこまで正当化されるのか、と言う問題は難しい点を含んでいます。まだ長期フォローアップ時に必要な検査はエビデンスに乏しいのが現状だからです。特に検査費用が高くなるMRIなどは悩むことが多いと思います。最新のCOGガイドライン(Ver.5.0)でも、できるだけルーチンの定期検査は少なくして、フォローアップ時に臨床的に徴候や症状があれば検査を追加するというスタンスになっています。ただ薬物療法等の対処法がある甲状腺機能低下や心・腎機能低下などは、リスクのある患者では年に1回(心エコー検査は2年に1回)はスクリーニングしておくということは考えても良いのかと思います。対処方法がない場合には、必ずしも検査はせず、臨床的に問題になったときに相談するのでもやむを得ないかもしれません。
Q
A アントラサイクリンの換算に関して、以前のCOGのガイドラインでは、ドキソルビシン1対し,ダウノルビシンは0.83でしたが、その後ドキソルビシン1対し,ダウノルビシンは0.5という報告が出たため、2018年版では,ドキソルビシン1対し,ダウノルビシンは0.5に変更されました。しかし2019年のLanset Oncologyでは、ドキソルビシン1対し,ダウノルビシンは0.6との報告がされています。論文の対象者や解析の方法などによってもある程度の変化はあると考えられます。心毒性はアントラサイクリンを100mg/m2程度使用しただけでも多少の影響はあるとも言われており、多く見積もっておいた方がよいのではないかと考えられます。1:0.5も間違いではないし、COGの現在のガイドラインに掲載されているのでこれを使用してもよいですが、現在のJCCGの治療サマリーなどは1:0.83を使用しており、現在関係者の間で協議されているところです。イダルビシンも2019年の報告では1:10.5とされているので、今後協議する予定です。
Q
A 小児がん経験者において症状が出現する前に検診をすることによるメリットを対照群との比較で統計学的に証明したコホート研究は私の知る限りは存在しないと思います。もちろん症例報告レベルでは、内分泌検査などでは実際に多く経験するわけですが、検診を行わない群との比較がなく、検診を行うことで生存率やQOLがどのくらい向上するのかは不明です。心機能に関しては、あくまでシミュレーションですが、COGのガイドラインに沿ってスクリーニングすることによって、2年に1回心機能検査をすることは医療経済的に見合う効果があるといわれています。(Yeh JM et al: Ann lntern Med 160:661-671,2014 およびWong FL et al. Ann Intern Med 160:672-683,2014)
Q
A いつまでフォローするかの目安は、「小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン」をご覧ください。「小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン」はただいま改訂作業中ですが、当面は日本小児がん研究グループ(JCCG)のホームページから現バージョンがダウンロードできます。いずれにしても、思春期から成人期になるプロセスで、自分の疾患・受けてきた治療・将来のリスクに関して理解し、定期受診などの保健行動がとれるようになっていることが望ましく、また医療側では、成人後にかかることのできるクリニックや相談機関を具体的に紹介しておくことが大切です。
Q
A その他にもフォローアップ手帳は施設独自のものを使用されている場合もあります。ご希望があればお渡しして使い勝手のよいものを選んでいただければよいのではないでしょうか。
Q
A 誰を対象としたどのような情報リーフレットかによって入手可能なものと未開発なものがあります。ウェブサイトから入手可能なツールとしては例えば以下のようなものがあります。ご利用の際は各サイトの注意をよくご確認のうえ各利用者さまの責任のもとでお願いします。
●小児がん全般:国立がん研究センター小児がん情報サービス
●晩期合併症(一般向け、医療者向け):がん情報サイト
●晩期合併症(本人用):年齢別教育ツール、JPLSG会員のページ→長期フォローアップ→「教育ツール」から、小学生低学年用のパワーポイントファイル、小学生高学年~中学生用のゲーム、高校生以上用のフラッシュアニメーションがダウンロード可能です(施設IDとパスワードが必要です)
●小児がん経験者の復学:スクリエ(復学支援プロジェクト)
●病気の子どもの理解のために(国立特別支援教育総合研究所、教育関係者向けパンフレット)
  白血病脳腫瘍
Q
A 日本小児血液がん学会HPに「小児・AYA世代のがんの長期フォローアップの研修会(LCAS)」がございます。そちらのQ&Aのコーナーにこれまでの研修会で寄せられた質問とそれへの応え(回答例)も掲載されています。 また、医療以外の具体的な支援で院内他職種でもその支援の対処が難しいなど、迷った際には、小児がん拠点病院の相談支援室にお尋ねになったり、上記のHPへの問い合わせをすることもよいかもしれません。(ただし、かなり個人的な難しい状況の質問には回答が難しい場合もあります)
  • 成人科への移行について

Q
A 成人診療科への移行が困難な理由がどこにあるのかによるのかもしれません。血液腫瘍であれば血液内科に引き継いでもらうことが多いと思いますが、全身性のGVHDの治療中の方や重篤な臓器障害のある方は、治療の引継ぎがなかなか難しいのが現実で、今のところは個別に治療の継続を打診していかざるを得ないでしょう。複数診療科に関わっていただく場合は、院内の連携構築に熱心な施設がねらい目かもしれません。造血細胞移植後でも、甲状腺や性腺ホルモンの補充がメインという方は、内分泌代謝科や婦人科、プラスαに紹介してホルモン補充療法を継続してもらいつつ、本人と紹介先に、その他に気を付ける晩期合併症リスクや検診について簡単に記載したリーフレットなどをお渡ししています。あまり細かいお願いをするとかえって敬遠されてしまうので、お願いしたいことを具体的に箇条書き3つ程度に留めます。紹介先での診療が安定するまで、ある程度は小児施設での診療を平行して継続する必要があることも多いです。トランジションには本人の疾患、治療内容、晩期合併症の理解とともに、服薬管理や受診行動の自立も必要なので、早め早めに本人や家族の準備を進めていきます。
Q
Q
A2019年8月1日からオープンした固形腫瘍観察研究新システムの追跡調査にはこの合併症チェック票が組み込まれています。また、こちらのHPでもダウンロードが可能です。
Q
A 成人診療科医には、成人診療科に何をしてほしいのか、どのような役割を期待されているのかを小児がん医療者から明確に伝えることが大切です。また総合診療的・予防的な視点をもつ小児科診療と問題解決型の専門分化した成人診療科で、診療スタイルが異なることを患者・家族が十分理解できてないことで迷うことがあること、移行当初は何か成人診療科医が困ったことがあれば、小児診療科医がいつでも相談にのることを約束しておくことも重要です。小児がん医療者は患者離れを上手に行いながらも、常に様々な問題の相談者として小児がん経験者を「陰ながら支える」という姿勢も大切と思います。
Q
A まず大人になった時には、必要な医療的ケアが技術的に小児医療の枠を超えたものが出てくることを納得してもらいます。成人医療にうまく移行できることが最終的には小児がん経験者の医学的管理の面でもより適切な医療が提供されうること、また本人の自立心を育てることにつながることを理解してもらいます。また「自分の体のことを十分把握していない患者の診療には抵抗があり、そのような状況下の受診は患者に不利である」という成人診療科医の意見をふまえ、成人医療移行に向けた患者教育も必要です。大人になれば、自分の健康は自分で守るという自覚と年齢相当のヘルスリテラシーが必要になること、総合診療的・予防的な視点をもつ小児科診療と問題解決型の専門分化した成人診療科で、診療スタイルが異なることも前もって患者・家族に説明しておくことを忘れてはなりません。また移行当初は、何か成人診療科医で困ったことがあればいつでも相談にのることを約束しておくことも重要で、小児がん医療者は患者離れを上手に行いながらも、常に様々な問題の相談者として小児がん経験者を「陰ながら支える」という姿勢も大切と思います。
  • 晩期合併症についていつ話すか

Q
A やっと診断がついて、さあこれから治療開始というときに前もって晩期合併症について詳細な情報を提供することは、患者/家族の闘病意欲をなくすことにも繋がり、あまり適切ではないように思われます。一般的には治療を開始してしばらくたち、患者の特性がわかり、家族と人間関係が構築されてから、治療に伴う晩期合併症に関しても段階的に説明していくことが実際的と思います。それはそれで良いと思いますが、いくつか例外があります。
1つは最近意識が高まっている生殖機能(妊孕性)温存です。男性の場合には、化学療法が始まると段階的に精子の濃度や質が落ちるといわれています。女性でも治療が進むと卵子の採取が困難になることがあると言われています。そういう意味では思春期以降の小児・AYAがん患者においては、診断時が最も良好な生殖機能温存のチャンスであることは間違いありません。しかし総合的に考えると、診断間もない、病名告知(Truth-telling)とほぼ同時に「がん」の話と生殖機能温存の話をして患者家族の混乱を招かないかという危惧があります。日本癌治療学会で作成された「小児、思春期・若年がん患者の妊孕性ガイドライン」も、基本的にはがん患者に対しては原疾患の治療が最優先であり、その治療が遅れることなく遂行されることが大原則というスタンスです。その基本を堅持しつつ、治療開始なるべく早期から妊孕性温存療法の有無に関して妊孕性温存療法の可否を判断しやすくなり、最終的には小児・AYA患者のサバイバーシップ向上という恩恵がもたらされることを目指して、がん治療医と生殖医療を専門とする医師との密な医療連携することが重要と考えます。
もう1つは治療選択に際して晩期合併症の問題が関わってくる場合です。放射線をあてるかあてないか、あてるとしたら線量や線源(陽子線などの粒子線を使用するのか)など、標準治療に複数の選択肢がある場合には、期待される治療成績と共に晩期合併症の起きる可能性などの情報も治療選択に関わってくる可能性があります。その場合には、早めに詳細な晩期合併症の情報を提供する必要が出てくるかもしれません。
臨床研究でプロトコールが決まっている場合や上記のような問題がない場合には、診断間もない時期に晩期合併症の話を詳しくする必要性は低く、ある程度治療が進み一段落してから(外来治療に移行する時期、次の治療段階に進むときなど)詳しく説明するなどあくまで希望を持って治療に立ち向かうことができるよう支援することも大切ではないかと考えます。
ただ、晩期合併症のリスクを伝える理由として、我々医療者は「がんだからといって治ればそれでいい」とは考えていないこと、10年、20年、それ以上の先のことまで大切に考えて今からの治療に最善を尽くすと伝えることで、治ることを前提とした説明であって、死を容易に想起させる重大な疾患を発症した子どもの親に、一家の危機にいきなり直面した親に、少しでも生きる希望と医療者が味方になる、力になることを伝えられるのではないでしょうか。がんになった以上、晩期合併症のリスクは必ずあって、生活はおろか価値観まで変わってしまうような重大な事態ですが、起こったことや抱えるリスクは変えられなくても、その家族や本人にとっての意味付けは変えられるかもしれません。
  • 病名告知について

Q
A 最近はほとんどなくなりましたが、昔治療した家族の中には、もう元気になったのだから病名を告知して患者を迷わせたり、悩ませる必要はないのではないかと主張されるご両親は確かにいます。辛いことは全て親が背負って、患者自身には背負わせたくないという、親心と言えば親心なのでしょうが、子どもの力を信じて子どもにTruth-tellingを行う事は、患者さんの将来にとって重要なことと思います。親が一生子どもの面倒をみていくことはできず、子どもは親から自立していくことを考えると、小児・AYAがんの患者が自分の病気のことを正確に理解しておくことは、将来の晩期合併症のリスクと向き合うためにも、健康を維持増進していくためにも必要不可欠であると思います。患者自身の力を信じましょう。
ただ「頑なに拒む」ということは母または父の「告知に関する不安、心配、気持ち」が心の奥底にある可能性が高いと思われますので、その部分を看護師や臨床心理士・保育士などに聞き出してもらうことも大切だと思います。父または母が「告知にまつわる不安などの気持ち」を医療者に言葉で表出することにより父または母の中で思いや考えが整理されて「聞いてもらえた」という気持ちにもなれて、我々医療者も患者さんや親への理解が進み悩んでいたポイントが明確になったり、告知への抵抗が和らいだりすることもあるかと考えます。
Q
A 乳児期のがん罹患などでは、診断時・あるいは治療終了時といえども子どもの理解度からTruth-tellingは困難だろうと思います。
子どもに病気のことを伝えるときに注意すべきことは、以下の3点です。
1.絶対にうそをつかない
2.年齢や理解に応じて、子どもにわかる言葉で説明する
3.希望を失わせないような雰囲気と周囲への配慮を十分に行う
小学生になったら、疾患名の正確な理解はできなくても、比喩を使えばある程度病態の理解はできると思います。小学校の高学年になると、体の仕組みと共に説明すれば病態だけでなく病名の理解もある程度可能と思われます。その時には、子ども自身に病気を説明した理由(病気を知ることにより真正面から立ち向かえること、友達とオープンに話し合え悩みを共有出来ること、信頼関係が強くなること、同じ子供同士でコミュニケーションがとれること、検査や治療の理由が解ること、入院や病気が仕返しではないことなどの利点)を適宜説明することも大切です。
患児への病気説明は、その子の人生や生き方について病気を度外視しないで話し合える利点があり、さらに病気を克服した場合はその達成感も持て、また病気の人に対する共感の心を育てる働きもあります。不幸にして再発や難治化した場合は、病気の状態を正しく把握してターミナルケアも含めた治療選択を自ら行い得る事が期待されます。
Q
A 前述の「晩期合併症についていつ話すか」で説明したように、必ずしも病初期に晩期合併症の詳細を全て説明する必要はないと思います。小児がん経験者も大人になります。大人になれば、自分の健康は自分で守るという自覚と年齢相当のヘルスリテラシーが必要になります。その点を考えると、少なくとも治療終了時には、がんの情報と受けた治療情報を元に、何らかの形で今後の晩期合併症のリスクを伝えておく必要はあるのではないかと思います。リスク情報を知ることは、心理的にはマイナスになる可能性もありますが、長期的には自分のリスクを正確に知ること自体は、自分の将来設計をしていく上でも極めて重要であると思います。
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